今後の見通し各々のがんに応じた血管性微小環境への治療的アプローチを検討する■研究ポリシー生物学/医学における新しい概念の創出のために、分子レベルから、細胞そして個体レベルまでの「ひとつなぎの研究」に日夜励んでおります。しかしそのような日々のなかでも解釈に困る結果、予想とは外れた結果、望ましくない結果が出て困り果てるときは多いです。そのような苦難のときこそ、多くの人の意見を聞くためオープンな発表をすると、新しい案出とともに次のステージに進めると信じています。61た血管近傍にて、がん細胞が抗がん剤耐性能を獲得する様も観察され、血管性ニッチの形成メカニズムが治療開発ターゲットとなり得ると予想されます。抗がん剤や放射線に対し強い抵抗性を示す「がん幹細胞」は、腫瘍血管との相互作用(血管ニッチ)に強く依存しています。この観点は、古典的な腫瘍血管像に基づく抗血管療法とは異なるアプローチを血管研究にもたらしつつあります。我々はまず、既存の抗腫瘍血管療法が効きにくい、神経膠芽腫の新規治療法開発を目指しています。膠芽腫の血管内皮細胞はセルロプラスミンを介してがん組織における血管近傍の鉄イオン代謝を調節し、がん細胞のエピジェネティックな遺伝子発現調節を担っていることが分かってきました。さらに膠芽腫マウスモデルでは、選択的鉄イオンキレート剤を既存の放射線化学療法と併用することで、膠芽腫組織への殺細胞性が高められ、より優れた延命効果が得られています。血管-金属イオン代謝という新機軸に基づく腫瘍血管微小環境を標的とする治療戦略のひな型になると期待しています(FIGURE 3)。FIGURE 1:抗腫瘍血管療法の変遷。兵糧攻め戦略から、現在はがん組織の血流を改善する血管正常化戦略が主流となっている。我々は血管ニッチシグナルを解明し、新たな治療戦略の確立を目指す。FIGURE 2:がんの増大に伴って、組織の外から血管が受動的に供給されると考えられていたが、生体イメージング解析により、血管とがん細胞との高度な運動連携が観察された。FIGURE 3:膠芽腫血管への治療アプローチの一例。鉄イオンを制御することで併用する抗がん剤への抵抗性を弱め、治療効果を高められる。iFremed Integrated Frontier Research for Medical Science Division
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