今後の見通し階層横断的構造生物学と比較乾燥構造生物学■研究ポリシー役に立つかどうかはさておいて、自分が知りたいことを知るために研究をしていたい、と考えています。たとえ興味があることでも、誰か別の人が解き明かしてくれるなら、その誰かにやってもらって結果を教えてもらうだけのほうが楽でいいと思っていますので、誰しもが重要だと思っているような研究はやる気が起こらないのが正直なところです。化学的な視点から生命現象を理解する、ということを念頭に置きながら、各論の裏に潜んでいるであろう普遍的な枠組みを理解したいと考えています。49知られています。乾眠という生命現象を分子から理解することで細胞・臓器・医薬品・食品の長期安定保存や宇宙居住に寄与する知見が得られると期待できます。実際の生命現象は電子-原子-分子といった微視的レベルから細胞-器官-個体といった巨視的レベルまでの多様な階層の連続的な集合体です。今後は、これまで別々に得られてきた異なる階層における知見を階層横断的に統合していくことを目指します(FIGURE 3)。この目的のために、①これまで以上に精密な構造解析を展開し、原子・分子構造と量子レベルの議論とを結び付けて生命現象の本質を統合的に理解しようとする「量子構造生物学」につなげていくとともに、②実際の細胞内での生体高分子の構造や挙動を高い分解能で明らかにする細胞スケールでの構造解析などに取り組んでいきます。また、乾燥耐性という生命現象をより普遍的な枠組みで説明するために、クマムシ以外にも、乾燥耐性を持つものの未だ研究が手つかずの「未開拓生物」が有する分子の研究を行っていく予定です。FIGURE 1:窒素循環に関わる酵素の全体と触媒反応中心の構造。水分子(白矢印)と水酸化物イオン(黒矢印)といった水素ひとつ分の違いを可視化している。FIGURE 2:クマムシの乾眠とクマムシが乾燥時に高発現するタンパク質の立体構造。FIGURE 3:今後の見通しの概念図。iFremed Integrated Frontier Research for Medical Science Division
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