今後の見通しより効果的ながん治療法の提唱と他疾患との関連性の解明■研究ポリシー古典的なトランスポーターの輸送活性の解析にとどまらず、オミクス解析、イメージング、遺伝子改変動物などの技術を活用し、分子·細胞レベルから組織·個体レベルまでの生物学的多階層を網羅したトランスポーター研究の展開を目指しています。世界中で自分だけが解き明かせるような真実にたどり着くことが、基礎研究の理想形であり醍醐味であると思います。研究成果の実用化という大きな目標を掲げながらも、自身の興味には忠実に、研究対象とじっくりと向き合う姿勢を大切にしています。13明らかになりつつあります。がん治療標的としての意義の確立を目指して、LAT1の病態特異的な機能の全容解明に取り組んでいます。従来の知見から、LAT1阻害薬は、創薬当初に想定していたがん細胞に対する直接的な増殖抑制効果に加えて、腫瘍血管内皮細胞を標的として血管新生抑制効果を示す、これまでにない作用機序のがん治療薬になることが期待されます(FIGURE 3)。たとえば、VEGF-A(およびその受容体VEGFR2)を標的とする既存の血管新生阻害薬を、LAT1阻害薬と併用することで、その抗腫瘍効果を増強したり、治療抵抗性などの臨床上の課題を克服したりすることも可能ではないかと考えられます。またがん以外にも、病的な血管新生が病態形成に深く関与する疾患として、虚血性網膜症、関節リウマチ、乾癬、動脈硬化などが知られています。これらの疾患の血管新生においても、病態特異的な血管内皮細胞のLAT1の機能が関与している可能性を検討し、治療標的としての潜在的価値を明らかにしたいと考えています。FIGURE 1:生体内には様々なトランスポーターが存在し、物質の分布と動態を制御している。その生理的機能の重要性を反映して、トランスポーターの機能異常は多くの疾患とも関連する。FIGURE 2:LAT1はがん細胞のみならず、腫瘍血管内皮細胞にも高発現する(左)。マウス腫瘍モデルにLAT1阻害薬を投与すると、組織内血管密度が低下し、腫瘍の成長が抑制される(右)。FIGURE 3:LAT1阻害薬は、がん細胞と腫瘍血管内皮細胞の両方に作用点をもつ。がん細胞の成長·増殖を直接阻害すると同時に、血管新生を抑制することでユニークな抗腫瘍効果を発揮する。iFremed Integrated Frontier Research for Medical Science Division
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