若手研究者PROFILE 2022
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今後の見通し発生のシグナルを悪用するがん?遺伝子変異の少ないがんを攻略する■研究ポリシー生理と病理は表裏一体、「異常」を知る為に「正常」を知る、を研究ポリシーとしています。発生過程の多くの臓器で上皮細胞は、塊・集団として緻密かつダイナミックに組織を形成し、固有の機能を発揮します。一方で、この上皮集団による「正しい組織化」のプロセスにひとたび重大な異常が生じると、上皮は「破壊的な組織化」を起こし、がんとなって私たちの生命を脅かします。私たちは、正常な組織化シグナルの中に新たながんの創薬標的を見出す独自の視点から、新たな医療の開発を目指す研究を行っています(FIGURE 1)。51ゲットにした創薬にも取り組んでいます。実際、Arl4cを標的とした修飾型アンチセンス核酸を開発したところ、動物実験で複数のがんに対して強い抗腫瘍効果が認められ、新たな抗がん剤の開発につながることが期待されます4)(FIGURE 3)。成人のがんでは、遺伝子変異の蓄積や細胞選択によって、正常の組織形成過程では起こりえないプロセスで腫瘍化する場合もあります。一方で、成人がんと比べて、発育過程で生じる小児の固形がんは、遺伝子異常の頻度が大幅に少なく、正常の組織形成シグナルにより強く依存している可能性が高いと考えています。また、小児の固形がんは発症頻度が少なく、分子標的薬が開発されていない領域です。私たちはWntシグナルの異常が発がんに密接に関与する小児の肝臓がんである肝芽腫において、過剰に発現する標的遺伝子GREB1を同定しています。GREB1に対するアンチセンス核酸は、少数の遺伝子異常による肝芽腫の形成を抑制することも明らかにしています5)。今後は、発生や組織形成の解析モデルから得られた知見を、小児がんの新たな分子標的や治療法の開発につなげていくような研究を展開していきたいと考えています。FIGURE 1:発生過程で上皮が正しく組織化するためのドライバーとなる「組織化因子」を同定する。組織化シグナルはがんで異常に再活性化するため、腫瘍特異的な創薬標的となる。FIGURE 2:平面では再現困難な上皮の組織化を独自の多次元的培養系で再現することで、新規の上皮幹細胞や、組織化の制御シグナルを同定している。FIGURE 3:同定した組織化因子を標的とするアンチセンス核酸薬の開発に取り組んでいる。Arl4cに対するアンチセンス核酸は、皮下または局所投与で、抗腫瘍効果を示す。iFremed Integrated Frontier Research for Medical Science Division

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