若手研究者PROFILE 2022
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今後の見通し細胞種や微小環境を越えて伝播する新規のがんシグナル経路と、そのfine-tuning機構を解明する■研究ポリシー網羅的な解析の興隆により生命科学の情報量が格段に増加しました。その結果、生命現象が複雑系であることを改めて知ることになり、「複雑なまま理解する」ことの重要性を感じます。学術的にそうした側面が必要である一方で、「何が大事なのか」をわかりやすく広く示すことも科学の役割だと思います。特に実験科学者はモデルを作り、生命のシステムに介入することで、生命現象の軸を詳らかにすることができます。複雑な生命の美しさや精緻さを誰もが理解できるよう端的に伝えることをポリシーとしています。41マウスがんモデルで核酸医薬を投与し、実際の生体内での分子の機能評価、さらには治療標的としての有用性を評価し、臨床での応用を目指しています。これまでは均質な細胞で均質なシグナル経路を解析することが主流でした。ただ一細胞シーケンスをはじめとした技術革新により、細胞の多様性を許容して解析することが可能となってきています。現在私はシグナル伝達経路を細胞内での枠組みだけではなく、細胞間をどのように伝播していくかを考えようとしています(FIGURE 3)。細胞種や微小環境を変えながら伝達することで、これまでに知られていないシグナルの増幅機構などがわかるのではないかと考えています。適切な再構成系を構築し、タンパク質・細胞間相互作用を生化学的に示し、それらをシステム生物学的見地から数理モデルに統合しようとしています。そこからがんシグナルの調節がいかになされるかを解明したいと思っています。その調節因子が同定できれば、生体内での機能評価のために核酸医薬が大きな力を発揮できると期待しています。FIGURE 1:膵がんモデルマウスに全身投与した核酸医薬(修飾型アンチセンス核酸)の分布。膵臓の腫瘍部に特異的に取り込まれている。FIGURE 2:核酸医薬(修飾型アンチセンス核酸)を用いて、転移促進機能を有するWntシグナルの下流分子(Arl4c)を発現抑制すると、膵がんの浸潤・転移が減少する。FIGURE 3:Wntシグナルの細胞内、細胞-細胞外基質、細胞間の伝達機構と、発がん促進機序の解明。iFremed Integrated Frontier Research for Medical Science Division

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