若手研究者PROFILE 2022
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今後の見通し腸管上皮バリアの研究から炎症性腸疾患治療への応用にむけて■研究ポリシー私の医学者としてキャリアは、小児科医として始まり、その後臨床を経験する中で、基礎研究から医療の発展に貢献したいと思い、免疫学研究の道に進みました。そのため、自分の研究が小児疾患の治療に役立つことが大きな夢ではありますが、一方でそのようなゴールに縛られず、生物学者として興味深いと考える生命現象について、他の研究者とは違うアプローチでそのメカニズムを地道に解明していくことが、回りまわってどこかで医療に役立つと信じて研究をしています。11今後、各糖鎖構造がどのように腸内細菌の制御に関わっているかの詳細を明らかにしていきたいと考えています。炎症性腸疾患(IBD)は、腸内細菌に対する宿主の過剰な免疫応答により、腸粘膜に慢性炎症が起こる難治性疾患ですが、その原因の一つとして腸管上皮細胞が産生する粘液や抗菌分子といった上皮バリアの異常があることがわかっています(FIGURE 3)。しかしIBDに対する治療として、上皮バリアをターゲットとした治療はありません。その理由の一つとして、粘液中の糖鎖を中心とした分子がどのように腸内細菌を制御しているのかについて未解明の部分が多く残されていることが挙げられます。今後は大腸上皮の糖鎖の解析を中心に、in-vivoだけではなく、生体機能チップなどを用いたsynthetic biology的なアプローチによって上皮バリア分子がどのように腸内細菌を制御しているのかを明らかにすることで、IBDの病態解明、新規治療開発に貢献できればと考えています。FIGURE 1:マウス大腸組織像:大腸では、上皮細胞によって構築される分厚い粘液層により、管腔に存在する腸内細菌と腸組織が分け隔てられている。FIGURE 2:Lypd8欠損マウスの表現型:Lypd8遺伝子が欠損したマウスでは、べん毛を持つ大腸菌などの運動性の高い細菌が粘液層に侵入し、それにより大腸炎が起こりやすくなる。FIGURE 3:炎症性腸疾患の病態仮説:遺伝的素因などにより、上皮バリアの機能低下が起こると、腸内細菌の組織侵入が起こり、侵入した腸内細菌に対する免疫応答により炎症が惹起される。iFremed Integrated Frontier Research for Medical Science Division

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